大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(ラ)837号 決定

抗告人 大同石油株式会社

訴訟代理人 高木右門 外二名

相手方 橋村利光

主文

原決定を取消す。

本件を東京地方裁判所に差戻す。

理由

抗告の趣旨及び理由は別紙記載の通りである。

和議法第二〇条第一項による保全処分として、和議債務者の財産についての和議債権者よりの強制執行に対し、その停止を命じ得るか否か。これが本件の問題であり、原裁判所はこれを消極に解し、その理由としては、右条項による保全処分は和議債務者の行為によつて和議債務者の財産が隠匿又は離散されることを防止することを目的とするものであつて、同条項による保全処分は和議債務者の作為不作為のみを対象とすべきであり第三者である執行債権者に執行の避止を命ずるような、第三者の権利を侵害することの甚しい処分は許されないというのである。

しかし和議法第二〇条第一項は「裁判所ハ和議開始ノ決定前ト雖利害関係人ノ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ債務者ノ財産ニ関シ仮差押、仮処分其ノ他ノ必要ナル保全処分ヲ命スルコトヲ得」と概括的に規定していて、必ずしもこの保全処分の対象を債務者の作為不作為のみに限定したものと解しなければならないものとも考えられないのであり、和議債務者の財産に対する強制執行は、和議が開始されれば当然中止となること同法第四〇条の規定するところであるから、和議開始の可能性が相当程度に達し、かつその開始の場合における和議目的達成のために必要であるとすれば、右第二〇条第一項にいう、「債務者の財産に関し必要な保全処分」として、その執行停止をすることができるものと解するのが相当である。

勿論右のような解釈をとるとすれば、執行の避止を命ぜられた債権者が不利益を蒙るに至ることは明らかであるが、右執行は和議開始の場合には当然に中止せられ、その中止による損害は執行債権者においてこれを甘受しなければならない関係にあるのであるから、和議開始前でも、和議開始の可能性が相当程度に達し、かつその開始の場合における和議目的達成のために必要な処分とあれば、その処分による損害もまたこれを甘受するを要するものと解すべきであつて、和議法第二〇条第一項の規定は、強制執行の避止についても、その必要性の認定の制限の下に、和議開始に至るまでの中間的処置を許したものと解するのが相当である。

原決定引用の当裁判所昭和二七年八月二九日決定は、破産法上の否認権行使の対象となるべき第三者の財産に対する処分禁止の仮処分に関するものであつて、破産法第一五五条にいう、「破産財団に関する」ものということのできないものについての裁判例であるから、本件の参考とすることはできない。

また原決定は、会社更生法第三七条第一項の規定を引用して、同条項のような強制執行中止の特別規定のない和議法にあつては、その中止を命ずることはできないものと解すべきであると立論する。

しかし会社更生法は和議法よりはるか後に立法せられたところであり、従つて前者に明文があり後者にこれを欠くからといつて、これを反対解釈の資料とすることは必ずしも適切ということはできないのであり、寧ろ後者の欠缺を明文を以て補つたものと解するのが相当であろう。なお原決定は、和議開始前に強制執行の停止をすることが許されるとすれば、和議を破産回避の好手段に供するの弊を助長するの虞れなしとしないともいうが、強制執行停止の保全処分は、前記のように、和議開始の可能性が相当程度に達した場合でなければこれをすることができないものと解するとすれば、右のような弊害もまたこれを憂えるの要はないものと考える。

以上の次第であるから、和議法第二〇条第一項の規定によつては強制執行の停止を命ずることはできないとした原決定は失当であつて、本件抗告は理由があり、原決定はこれを取消すべきであるが、本件において抗告人の執行停止の申立を許容すべきや否やについては、和議開始の可能性の有無その他なお審理を要するものがあると考えられるので、民事訴訟法第四一四条、第三八九条第一項の規定によつて、本件を原裁判所に差戻すべきものとし、主文の通り決定する。

(裁判長判事 薄根正男 判事 奥野利一 判事 山下朝一)

抗告の理由

第一、申立会社の立場

(一) 申立会社は石油、天然ガスの採掘等を基軸とする事業を営む株式会社であるところ、債務超過のため昭和三十一年九月六日東京地方裁判所に和議法による和議開始の申立をなし(同庁昭和三十一年(コ)第二十号和議事件)、ついで同月十四日和議費用の予納を了したものである。

(二) ところが相手方は申立人に対する前掲公正証書による債務名義にもとずき同年九月十三日および十四日の二日にわたり申立会社の所有にかかる別紙目録記載の物件の差押をなした。

しかして右物件はいずれも申立会社の事業遂行上必須の物件であるとともに、競売価格は総計にしてわずか金三百十八万余円であるが、これを新規に購入するときは約金八千万円以上の出費を要するものである。

すなわち、特殊な物件であるため営業価格と清算価格(スクラツプ値段)のひらきは想像外のものあり、他方和議条件履行の基礎である営業収益を生み出す物件の喪失をも意味する。この点で該物件の競売は和議債務者たる申立会社の財産の価値の著しい毀損減少を来すものである。

第二、原決定は和議法第二九条第一項の解釈につき誤解がある。その理由を左に述べる。

(一) 和議法第二十条第一項が和議開始前の保全処分について規定する所以のものは、もつぱら和議開始前に当該和議の基礎となるべき債務者の財産の隠匿、毀棄、滅失、減少、離散、または価値の減少、等を防止するにある。しかしてこの限りにおいてはまさに原決定の指摘するとおりである。破産法第百五十五条第一項が破産手続につき同様の規定をおいているのも同趣旨であろう。それはいずれも、究極の目的である和議ないし破産手続の遂行を実効性あらしめるために認められた保全処分であつて、これら手続きの基礎をなすものは債務者の財産であるからにほかならない。

しかして、破産手続が破産者の財産に対する一般的執行であるに対し、和議手続は和議債権者に対する平等弁済または平等の権利を与えつつ、債務者に対する破産を予防することを目的とする。

如上保全処分の立法理由は一にこれら破産または和議手続の制度上の目的に奉仕する観点から考察しなければならないのである。

そうしてみると、これら保全処分は債務者の財産または財産価値の維持のための保全を目的とすることが理解しうるとともにそれ以上のものでもなければそれ以下のものでもないのである。

ただ破産と和議とはその目的を異にするから、その保全処分の内容、態様にもその間、おのずから異るものがあろう。たとえば、破産は一般的執行手続であるから破産財団の清算価格を保全する点に重点が置かれようし和議においては営業価格の維持保全に重点が置かれることがありえよう。破産法第百九十六条第一項後段の規定のごときは、まさにこの配慮に出でたものと解しえよう。

(二) こうして目的論的解釈の立場にたつてみると、和議法第二十条第一項の保全処分は破産法第百五十五条第一項の場合と同様、「債務者の財産」保全、すなわち債務者の現有財産またはその財産価値の維持保全を唯一の目的とするものとしなければならない。

これを逆に表現すると、債務者の現有財産またはその価値の維持保全のために必要かつ相当な手段である以上は、裁判所の自由裁量によつて内容ずけられることが許されているものといわなければならない。これ保全処分の制度的属性であるからである。

和議法第二十条第一項が「債務者ノ財産ニ関シ仮差押、仮処分其ノ他ノ必要ナル保全処分」と概括的に規定しているのは、その趣旨に外ならない。したがつて、保全処分の内容が仮差押、仮処分のほか和議債権者たるべき特定債権者の強制執行が一般和議債権者の利益に反しまたは和議手続の遂行を害するときは、これに対しその停止を命じ、あるいは換価の禁止を命ずる等和議裁判所の当然なしうる事項でなければならないのである。

(三) 原決定は本件強制執行の停止を命ずる保全処分は、「第三者である執行債権者に執行の避止を命ずる」ものであるから、ことは第三者に関し、したがつて第三者の権利を侵害すること甚しいものがあるから許されないと断ずる。

しかしてその考え方の根本には、和議法や破産法の定むる前記保全処分は「債務者の作為、不作為のみを対象とすべきで」あるという点に立脚する。

しかしながら、保全処分の立法理由が前述したところにあるとすれば、原決定の解釈は狭きに過ぎるばかりでなく、合理的でない。

すなわち、和議法第二十条第一項は「債務者ノ財産ニ関シ」必要な保全処分をなすことが定められているだけで、中心問題は債務者財産の保全であり、その保全目的は和議手続の遂行目的である和議債権者の一般利益と破産予防を阻害する財産の散逸と財産の価値の喪失を防止するにあるのである。したがつて第三者の行為または執行行為であつても将来実現さるべき和議手続の基礎的内容をなす債務者の財産の維持を不可能ならしめ、かつ一般債権者の利益や破産予防を阻害する行為についてはこれを防止することができなければ、制度本来の目的を達することができないのである。これ従来、和議裁判所が現実に和議開始前の保全処分として債務者の作為、不作為はもちろん、和議債権者たるべき第三者の作為、不作為を対象とする命令をなし、また強制執行の停止等を命ずる命令を臨機に出した所以のものである。原決定が和議裁判所の従前の取扱例を変更して本件強制執行の停止を許容しないのは失当である。

原決定の引用する東京高裁の決定は、破産法にいわゆる否認権行使の対象となるべき第三者の財産(すくなくとも破産宣告時において直ちに破産財団に組み入れうべからざる財産)に対する処分禁止の仮処分に関するものであつて、本件事案に適切でないのみならず、該高裁決定の傍論である「破産法第百五十五条は専ら債務者自身の行為に対する規定であつて、債務者以外の第三者に対してはその適用なきものと解すべきである」との判旨は論理の飛躍であると同時に制度の合目的判断を欠くものといわなければならない。すなわち、この種保全処分は「債務者の財産」に関するものでなければならないから、少くとも保全処分当時第三者の財産に属するものには許されないこと当然であるが、だからといつて保全処分当時債務者の財産に対し一般破産債権者の将来の利益を害するような特定債権者(第三者)の行為の阻止を排斥すべきであるとの結論は出ない。

なるほど、債務者の財産に関する場合でも、これに対する第三者の行為の禁止が命ぜられるときは、第三者に損害を生ずることがあるのであろう。しかしそれが一般債権者の利益に対応する損害であり、したがつて、当該第三者が一般債権者と同等の利益を保障されること以下のものでないのみならず、第三者が一般債権者と平等の弁済を受けることこそ破産手続の建前であるのであるから、破産法の立場からいえば、右のような損害は第三者が一般破産債権者たるべき者に対する優先的な利益を主張の裏返しであつて、許さるべきものでないといわなければならない。

この理は、和議法の場合にも同様であろう。

一般債権者の利益に優先する特定債権者の利益主張は、債権者平等の原則の貫徹する破産法、和議法の建前に反するものであるからである。

つまり、むしろ特定債権者の利益の独占を排除して一般債権者と同等の取扱いに服せしめることこそが、法の建前であるのである。

(四) 本件強制執行は、前述のように債務者たる申立会社の財産の価値を著しく減少するのみならず、競売によるその目的物件の喪失は本件和議の物的基礎を揺がす危険があり、ひいては一般債権者に不利益を与えるものである。ひるがえつて相手方の蒙ることあるべき損害は、和議の申立却下の場合にのみ考えうべき強制執行の停止による損害に過ぎない。原決定は、本件和議における和議債権者たるべき相手方の強制執行が一般和議債権者たるべき者の利益に反することを看過して、一に特定債権者たる相手方の損害のみに着目して本件申立を却下したのは、和議法上の保全処分の本質を誤解したものというべきである。

(五) さらに、原決定は、本件申立の却下理由として、会社更生法第三十七条第一項ないしドイツ和議法第十三条のごとき特別規定を要するとともに、これらの規定のないかぎり和議を破産回避の奸手段に供する弊を助長するおそれありと傍論する。なるほど、会社更生法第三十九条には保全処分について和議法第二十条、破産法第百五十五条とまつたく同旨の規定をおいてをり、そのほかに第三十七条をもつて別に強制執行その他の手続の中止に関して規定する。法典の統一的解釈を形式面だけでとらえれば、会社更生法に特別規定あり他方和議法、破産法にその規定がないかぎり、強制執行の中止や停止は許されないと解せないこともない。しかしながら、一歩退いて考えると、会社更生法は和議法や破産法よりはるか後に制定され、しかも占領下の特殊事情のもとに、しかも和議法や破産法と母法を異にしたアメリカ法的体系を継受してできたものである。したがつてこの特殊な立法事情を無視して形式的画一的な比較対照的解釈は許されないものといわなければならない。要はそれぞれの制度または立法の存在理由、すなわち立法趣旨に則つて合理的に解釈し判断すべき問題と考える。すなわち、法の解釈は各法典の立法精神を充足せしめるよう志向することが必要であつて、いたずらに法規の欠陥に理由をかりて制度本来の機能や目的を見失つてはいけないのである。

和議法第四十条によれば和議が開始すれば和議債務者の財産に対する強制執行、仮差押または仮処分は一般的に禁止され、また開始前なされたものは中止する旨規定している。和議法第二十条はこの規定にも対応するものであつて、しかも外延においてより包括的な規定なのである。もつとも、和議の開始は、債務者の財産管理および処分の権利に影響を及ぼさない(和三二条一項)ことを原則とするゆえに、保全処分として債務者の財産に対する強制執行等の禁止や停止を命ずるときは、執行債権者に一定の損害を与えることもあるであろう。あるいは奸悪な債務者はこれを利用して差押物件の隠匿をはかるかも知れない。また差押物件の著しい価値の減少をきたすかも知れない。しかし要は保全処分の方法のいかんと必要性の有無の問題として判断すれば足りるであろう。すなわち保全処分である以上、和議手続の保全目的、すなわち債務者の財産と債権者に対する平等弁済等の財産的基礎の確保以上に出ることは許されずまた執行債権者の利益と一般和議債権者の利益との比較考量等諸般の事情を考慮して必要性の有無を検討することができるであろう。

または和議開始の決定までの暫定的処分であるから、その間多大の日時を経過するものともおもわれない。

そうするとこの種保全処分を認めることによつて一般的に執行債権者に不当の損害を与えるものと断定することは許されないであろう。しこうして、これら保全処分の必要性やその方法は保全命令の申立の内容と和議申立の内容から一応判断しうることであつて、原決定のいうように必ずしも和議開始の要件可否等の審査を究極まで推し進めなければできないものでもないし、そのために第三者に特別の損害をかけるともおもわれない。原決定はこの点において、第三者の損害に関する判断につき、あまりに観念的であつて、そのため保全処分の性質を誤解したものといわなければならない。要は制度の運用の問題である。

本件においては、申立会社の和議債権者となるべき一般債権者と同様の立場にある相手方がその債務名義により申立会社の営業用の主要物件である掘さく機械等一式を差押えたのに対し、和議申立に関する裁判あるまで暫定的にその強制執行の停止を求める保全処分の申立の当否の問題である。物件それ自体は鋼鉄製品であつて、もちろん腐敗のおそれある物件でない。また競売の対象となれば特殊の機械および機械製品であるから本来の価格より著しく下廻つたスクラツプ値段で競落される運命にあつて、債務者たる申立会社はもちろん、総債権者にとつて不利益となるのみならず、執行債権者も他の債権者の配当加入により結局その利益を独占できないから、不利益に帰するのであり、現に本件物件については申立会社の従業員の優先的給与債権について仮差押があり、そのためたとえ競売価格で競落されたとしても、執行債権者は売得金の均てんに全然浴しえない状態にあるものである。

以上のべたように、原決定の判示する保全処分による第三者の損害論は制度的にも具体的事案においてもその理由がないのである。

(六) ドイツ和議法第十二条は、債務者の財産保全のため債務者に対する保全処分を規定すると同時に、第十三条において執行債権者が和議手続開始の場合和議債権者なるとき等一定の要件のもとに和議開始前の一時的、暫定的処分として現在および将来の強制執行の停止を命ずることができる旨規定する。他方破産法第百六条においては、破産財団たるべき債務者の財産保全のため必要な一切の仮の処分、とくに債務者に対し一般の譲渡禁止を命ずる保全処分について規定する。この一般の譲渡禁止は第三者に対しても効力を及ぼすものであつて、この禁止に反する行為は無効である。これらの規定を設けた趣旨は、一に債務者の財産を保全して、破産手続による一般的執行、あるいは和議手続による平等弁済等一般に総債権者の利益を保護するためにほかならない。和議の場合停止命令の対象となる執行債権者が和議債権者たるべき場合、すなわち一般の和議債権者と同等の立場にあるべき旨規定する点からみても、平等の原則が和議の根本理念であり、また特定債権者の利益が総債権者の利益の前に自己主張を止めねばならないことを宣明しているものとみられよう。

それはともかく、わが国和議法もドイツ法とその根本理念を全く同じくする。破産法においても同じである。しかるに保全処分の規定の仕方については、ドイツ法は前述のように破産の場合と和議の場合と異つている。それは破産手続と和議手続との性格の具体的差異に即して規定されているからであろう。しかし、いずれも当該手続の実現のため必要欠くべからざる保全処分であるという点においては結論を同じくする。ところが、わが和議法、破産法はドイツ法と同一の立法趣旨に出た保全処分についてまつたく同一の規定の仕方をしている。このことから、わが国では破産の場合も和議の場合も同一要件、内容、態様の保全処分しか許されないと解釈すべきであろうか。総債権者の利益のために債務者の財産を保全するという抽象的命題においては一致するであろう。しかし破産と和議はその目的と性格と手続とを異にする以上、保全処分の取扱や内容においてその間おのずから差異の生ずるのは当然であろう。それゆえ、わが法典では裁判所は利害関係人(債務者も含む)の、申立、または職権で、債務者の財産に関し(債務者に対しと限定していない)仮差押、仮処分其の他の必要な保安処分を命ずることができると、きわめて包括的に規定さることにより、保全目的である総債権者の利益のための債務者財産の保全のため具体的場合に即して必要にしてかつ十分な処分をなしうるよう定めたのである。

したがつて、この保全目的達成のため必要であると裁判所が認定したときは、これに即応する処分方法を裁判所は自由裁量で決定することができるし、またそうしなければならないのである。したがつて、この種保全処分については根本問題である保全目的を看過して、単に規定に強制執行の停止等の文言の具体的表現がないからといつて、これを排斥するのは、こと形式的解釈に過ぎ、もつて制度本来の存在理由を没却したものといわなければならない。

(七) 問題は保全処分であり、保全処分はその目的と不可欠かつこれに奉仕するの関係にある。

和議法第二十条の保全処分の保全目的は総和議債権者のために債務者財産の保全をなすにあること和議手続の本質から引き出されるところである。しかして本件強制執行はこの目的物件の価値を著しく減少するのみならず、その競売は債務者の財産的基礎を危うくし、もつて和議手続開始の場合総和議債権者の利益を害し、さらに和議債権者たるべき執行債権者の利益にもならないのであつて、このことは本件申立および和議開始申立の内容からして容易に知りうるところである。

原決定が抽象的観念的に第三者の利害のみに注目し、和議法第二十条の本来の立法趣旨を看過して、総債権者の利益に思いを到さず、かつ保全処分の性質を誤解して、その適用において従前の取扱いを変更し、本件強制執行停止命令(保全処分)を却下したのは本末顛倒のそしりを免れず不当である。そこで、原決定を取消し、さらに相当の裁判を求めるため抗告に及んだ次第である。

(別紙目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例